バスボムに、愛を込めて
21.潔癖症の理由


週末の土曜日、本郷さんに連れられて、とある家の前までやってきた。

そこはデートで行った海からさらにバスに二十分ほど揺られ、バス停からなだらかな坂道をさらに五分ほど登った閑静な住宅街の中に建っている、グレーの外壁の一軒家。

“本郷”という表札を前にして、彼は繋いでいたあたしの手を一度ぎゅっと強く握ると、インターホンに人差し指を伸ばした。

あたしは自分が実家に帰ったとき、インターホンを押す習慣なんてないのにな……
「ただいま」っていきなり玄関を開けて、家族もそれを自然に受け入れてくれていた。

でも、ずっと実家と距離を置いていた本郷さんにとっては、ここはそういう場所じゃないんだ……

あたしが寂しいって思っても仕方がないけれど、やっぱり家族なのにそんなよそよそしいのはいやだな……一体、本郷さんの家族はどんな人たちなんだろう。

緊張しながらしばらく玄関の扉を見つめていると、そこがガチャッと勢いよく開く。

そして中から出てきた人物を見るなり、あたしは呼吸をすることも忘れて固まってしまった。


「おかえり、瑛太」


だって……なんで芸能人が本郷さんの実家から出てくるの?

見間違いではないと思う。
昨日の夜だって、あたしテレビで見たもの、この人のこと。


「…………兄貴」


――え。本郷さん、今なんて?


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