バスボムに、愛を込めて


「……それから、誰のことも?」

「ああ。……お前に会うまではな。でも、誰かを大切に想う気持ちは取り戻せても、やっぱり兄貴に対しては複雑な思いが拭えないみたいだ。もう子供じゃないし、兄貴が誰を好きになろうと勝手だと思えるようにもなったから……あとは羽石が一緒にいてくれれば大丈夫だと思ったんだけどな」


本郷さんは、過去を吹っ切れず、リョータさんときちんと向き合えないことが悔しいようだった。

あたし自身も、せっかく彼に頼られたのに役に立つことができなくて、自分の無力さが情けない。
肩を並べて座るベッドの上で、二人同時にやるせないため息を吐き出した時だった。

部屋の扉がノックされ、その向こうからリョータさんの声がした。


「瑛太、ちょっといい? 母さんがアンタと話したいって」


本郷さんは立ち上がり、「ちょっと行ってくる」と一言いうと、部屋の扉を開ける。
そこに佇むリョータさんを無視して通り過ぎようとする本郷さんを、リョータさんはこう呼び止めた。


「ねえ、アンタがいない間ちょっと彼女借りていい?」


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