バスボムに、愛を込めて
「美萌ちゃんが今日瑛太を連れて来てくれてよかった。今まで家族が何を言っても帰って来なかったんだもの。あなたは、瑛太にとってものすごく大きな存在なのね」
あたしの前髪を大きなヘアクリップで留め、あっという間にもともとしていたメイクを剥すと、滑らかな手のひらで化粧水をぽんぽん頬につけていくリョータさん。
温かい指先の感触と、それと同じくらい温かい言葉がじんわり胸に沁みて行く。
だけど、さっき“本郷さんの役に立てなかった”と実感したばかりのあたしは、鏡の中のリョータさんにぽつりとこぼす。
「本当に、そうでしょうか……」
「……え?」
「さっき、本郷さんに高校生の時の話を聞きました。彼の前では言わなかったんですけど、あたし、当時の彼女にちょっと嫉妬しちゃったんです。彼女のことは、その……抱いたことあるみたいでしたけど、あたしたち、まだキスしかしてないから……」
こんなこと、本郷さんの前では絶対に言いたくなかった。
だって、一番つらいのは彼なのに、過去の彼女にヤキモチ妬くなんて、あまりに幼いって自分でもわかったから。
でも、たった一人だけ本郷さんに心も体も愛された人がいたんだと知るのは、やっぱりショックだった。
彼を疑う訳じゃないけど、この先も一生あたしを抱いてくれないとしたら、それは潔癖どうこうじゃなくて、やっぱりあたしでは何か足りないんじゃないかって思ってしまいそうで……