バスボムに、愛を込めて
体ごと後ろを振り返ってみると、バスボムをたくさん買い込んだらしく買い物袋をいくつもぶらさげた本郷さんがいた。
「本郷くん、お昼は?」
「まだだ。ここでいただく」
やったー! 食事をする本郷さんを間近に見られるなんて!
「あの、よかったらこの席――」
椅子に乗せていたバッグを床に置き、あたしは自分のとなりの席を素早く空けたのだけど。
「しかしこの店にいるってことは相変わらずなんだな、葛西の大食いは」
本郷さんはあっさりスルーして、寧々さんの隣に行ってしまう。
……いいのいいの、そんないけずな本郷さんも好き。
「あなたの潔癖もね」
「……キレイ好きなだけだ」
「ただのキレイ好きならお店の箸が使えるはずだけど、どうせ今日も持ってきてるんでしょ? マイ箸」
「それの何が悪い」
……気のせいかな。二人の間に不穏な空気が流れているような。
あたしはそれを断ち切ってあげるべく、メニューを本郷さんの方へ差し出し口を開く。
「本郷さんは何食べますか?」
「そうだな……時間もないし、カツ丼にするか」
「了解です!」
あたしは店員さんを呼び、本郷さんのオーダーを伝えた。
丼もの→蓋を開けたら湯気→眼鏡が曇る→それを拭うために眼鏡を外す――という一連の動作を妄想して、にやける顔を必死で引き締めながら。