バスボムに、愛を込めて
「なぁに? 改まっちゃって」
リョータさんは乙女チックなレースがかかった自分のベッドに座り、弟の顔を見上げる。
「……兄貴が高三の時。俺のせいで嫌がらせ受けてたっていうのは本当なのか?」
「やだ、母さんたら。話しちゃったのね、瑛太に」
「……本当、なんだな」
リョータさんは少し黙ってから、そうよ、と肯定した。
けれどその表情に翳りは全くなくて、むしろ本郷さんの方が苦しそうな顔をしていた。
「だけどもう関係ないわよ。卒業して専門学校に行ってしまえば、同じ志を持つ者同士ばかりだったから、私がこんな風でもメイクの“腕”だけで評価してもらえた。高校の時のことは誰のことも恨んでいないわ。みんなまだ子供だから、他と違うものを排除したがるのよ」
「でも……その原因を作ったのは……」
言いよどむ本郷さんに、リョータさんは苦笑してから言う。
「あの子、可愛らしくていい子だったのにね。きっと、瑛太のことが本気で好きだったのよ。それを間接的にとはいえ邪魔した私のことが許せなかったんじゃないかしら」
……二人の話が見えなくて、不安げに彼らの様子を見守っていただけのあたし。
それに気づいた本郷さんが、眼鏡を一度指で押し上げてから、沈んだ声で説明してくれた。
「羽石にさっき話した、昔の彼女が……わざわざ兄貴の学校に乗り込んで、ぶちまけたらしいんだ。“この人は、男なのに男が好きな変態です”――って」