バスボムに、愛を込めて


そして迎えた土曜の夕方。

乗り込んだ電車は、同じ目的地に向かう人が多いのか、浴衣や甚平に身を包む人々で混みあっていた。

美萌も同じ電車に乗っているはずだが、車内を移動するのは大変だろうからと、駅に着いてから待ち合わせることにした。

改札を出たところで、“時刻表の貼ってある柱のところにいる”とメールを打ち、その壁にもたれかかりながら美萌が出てくるのを待った。

遠くの方ですでに聞こえている祭囃子と、行き交う浴衣姿の人々の下駄がからころ鳴る音が、耳に心地いい。

そうしてほんの数分が経つと、俺の待ち人が改札を通ってやってきた。


「ごめんなさい! 思った以上に混んでて遅くなっちゃい、ま――――」


いつもよりしっかりメイクしてある大きな瞳が、俺の姿を上から下まで眺める。

……こうなると思った。だから着るのは嫌だったのに。

昨夜、“お盆は帰ってくるのか”という電話が実家の母からかかってきて、話の流れで“美萌ちゃんとはうまくいってるの?”と聞かれたから、今日のこともそれとなく話したんだ。

そうしたら、わざわざ父に車を出させてまで、母がこれを届けに来て……


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