バスボムに、愛を込めて
「……あまり見るな」
「いや、見ますって、そりゃ! っていうか、本郷さんが浴衣着ちゃったら、あたしが霞むじゃないですか!」
「そんなことはない。……その浴衣、よく似合ってる」
決してお世辞ではない。白地に薄い水色の朝顔が描かれた浴衣に身を包む美萌からは、普段とは違う清楚な雰囲気が漂っていて、見た瞬間に“萌え”たのだから。
「あ、ありがとうございます……」
俺の言いつけどおり髪を高く結い、露わになった首筋まで赤くする美萌。
付き合い始めてからよく感じるのだが、美萌は妄想とかそういう恥ずかしいことが得意なくせして、実際自分の身にそういうことが降りかかると全く対処できないらしい。
そんな彼女をからかうのが楽しくなりつつある俺は、今まで自覚はなかったがかなり意地が悪いみたいだ。
彼女の手を握り、人の流れる方へと歩き出すと、次第に芳ばしいソースの焼けた匂いが鼻をくすぐる。
「……お前はこういう屋台の食い物の中だったら何が好きなんだ?」
「えぇと……全部好きですけど、しいて言うならじゃがバタかなぁ」
「じゃあまずそれを買って、試しに一口俺にくれ。念のため箸は二膳もらうとして……」
「本郷さん、そんな消極的じゃダメです! あたしがあーんしてあげますから、頑張って食べましょう!」
実は内心かなり不安ではあったが、美萌にそう言われると、食べられるような気がしてくる。
美萌なら、“それが恋のパワーです!”とか言いそうだが、実際そうなんだろう。
明るく前向きな彼女には、本当にいつも助けられてばかりだ。