バスボムに、愛を込めて
目的の駅に降り立つと、あたしは小走りで本郷さんの背中を追いかける。
会社までの約300メートル、今まではただ見つめることしかできなかったけど、今日からは仲間になるのだから話し掛けても不思議はないはず。
「――本郷さん!」
自分至上最高の笑顔を張り付けて、彼の隣に並んだ。
すると、本郷さんが不思議そうに私を見る。
……きゃー、初めて目が合った!
全然好意的な眼差しではない気がするけど、初対面だもん。気にしない気にしない。
「あの、あたし今までベースメイク部門にいて、今日から本郷さんと同じバスボムチームになった羽石美萌(はねいしみも)って言います!」
歩きながら自己紹介をし、にこっと微笑みかける。
だけど本郷さんは一言も発することなく、何故かバッグからマスクを取り出した。
「……羽石さん。昨夜何食ったの」
「え?」
そしてそのマスクを装着しながら、眉根を寄せる。
……昨日の夜?
ええと、同期の麻里ちゃんと韓国料理を食べに行って、そしたらそのお店のカクテキが美味しすぎて、最後はそれをおつまみにずうっとマッコリを……
「も、もしかしてお酒臭いですか!?」
「……違う。キムチ」
「わぁ、そっちでしたか! ごめんなさい!」
……なんたる失態! 憧れのひとにキムチ臭さを指摘されるなんて! しかもマスクされるってことはあたし相当ニオウ……?