バスボムに、愛を込めて
「……いいんですか? 名前で……お呼びしても」
「当たり前だ」
美萌は手に持っていた巾着型のバッグの紐をもじもじと弄りながら、蚊の鳴くような声で言った。
「瑛、太……さん」
「……聞こえない」
ずいっと顔を近づけると、美萌の表情に、さらに照れが広がる。
「瑛太さん」
相変わらず声が小さいが、さっきよりは頑張ったか、と思える程度に俺を呼んでくれた美萌。
俺は食べ物の入った袋を地面に落とすと、彼女を自分の方へ引き寄せ強く抱き締めた。
風呂に入ってから来たのか、綺麗にまとめられた彼女の髪からはシャンプーの香りが漂い、男としての本能が身体の奥から湧きあがってくる。
「もう食い物とかどうでもいいな……」
そう言って美萌の顎をつかむと、その顔をふいっと逸らされた。
なんでだ……?
「……ダメです。今は屋台の食べ物を克服するのが目的なんですから。それまで……キスはおあずけです」
そう言って、俺の唇に人差し指を置いた美萌。その瞬間、俺の胸が何か変な音を立てたような気がした。
……もしや、胸キュンとはこの音のことだろうか。
おあずけされて嬉しいってちょっと自分の性癖を疑いたくもなるが、とりあえず、目の前の美萌が可愛い。