バスボムに、愛を込めて
『あ、あたしも会社戻ってますね!』
『……そ。俺も食ったらすぐ行くから』
本郷さんのそっけない態度は今朝からずっと同じなのに、その時はいとも簡単に傷ついた。
いけずな本郷さんが好きだなんて言ったの誰よ。ああ、あたしか。……真性のМになりきれない自分がむなしい。
いくら同じチームになっても、本郷さんに愛されるなんて夢のまた夢なんだろうか。
普段は滅多につかないため息を漏らしながら、あたしは会社までの道をとぼとぼと歩いた。
午後の第七実験室には、ようやくメンバー全員の顔が揃った。
人数が少ないので、とりあえずひとつの実験台を囲んでまずは自己紹介。一番にキツネ目の川端さんが、椅子から立ち上がった。
「――いちおう皆の上司ってことになってる川端です。だけど今まで営業、それからマーケティング部門での経験しかないから、もしかしたら無理な配合とか押し付けちゃうかもしれないけど、そういう時は、無理だって遠慮なく言ってください。僕も勉強させてもらうので。……しかし白衣なんて着なれなくてなんか緊張するんだよなぁ」
ちょっと頼りない印象ではあるけれど、優しそうな雰囲気に場の空気が和む。
配合とかそういうことは、元々開発部門出身のあたし、本郷さん、寧々さんがいればきっと大丈夫だし。
逆に実験室にこもりきりの仕事しかしてこなかったあたしたちにとって、マーケティングに詳しい人がいると思うと心強い。