バスボムに、愛を込めて


川端さんの番が終わると、本郷さん、寧々さん、あたし……という順で自己紹介をし、とうとう一番気になる“お嬢”の番になった。

誰も突っ込まないけど彼女は何故か白衣を着ておらず、足を組んで椅子に座り緩いパーマのかかった長い髪の毛先をつまらなそうに見ている。

その手の指先には、午前中に施されたのであろう綺麗なネイル。

ふ、ふてぶてしすぎる……


「あ、飛鳥さーん?」


機嫌を窺うように、ひきつった笑みで川端さんが声を掛ける。けれど彼女は完全無視で、見つけた枝毛をのんびり裂いていた。

その一瞬で、あたしを含めお嬢以外のみんながイラっとしたのがわかった。実験室の空気にぴりっとした緊張が走る。


「……小森さん。あなた、その態度はないんじゃないの? あなたはここでは一番後輩なのよ、上司や先輩の話を聞くくらいできなくてどうするの。それにね、この仕事は薬品も扱うんだからマニキュアは禁止よ」


さすが、寧々さん! きちんと後輩を叱る彼女の姿にあたしは心の中で盛大な拍手を贈る。

寧々さんの爪も輝いているけど、それはマニキュアが塗られているわけじゃなく、きちんと磨かれた爪本来の持つ輝き。

こんな素敵な先輩に怒られちゃったら、さすがのお嬢も反省するよね。

……と、思ったあたしは甘かったらしい。


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