バスボムに、愛を込めて
「本当は、パパのコネなんかで会社に入りたくなかった……」
絞り出すように、お嬢が言った。膝の上に置いた手がぎゅっと握られている。
「でも……本当に入りたかった化粧品メーカーの最終面接で落ちたんです……。そこは、可愛いバスボムをいっぱい作ってる会社で、私はそこで開発の仕事がしたかった……」
「小森さん……」
――悔しいんだ。すっごく。あたしも就活は苦労した方だから、気持ちはよくわかる。
何十回も面接を受けてるのに結果が出ないと、履歴書に書いた自分の長所なんて、なんの価値もないような気がしてきて、あの頃は散々、涙で枕を濡らしてた。
「このバスボムの企画は、それを知っているパパが私のために考えたものなんです。だけど、そんなの自分の力でつかんだものじゃないし、結局はパパの敷いたレールを走るしかないんだって思ったら悔しくて……」
ぽた、と彼女の拳に、透明な滴がこぼれた。それはひとつふたつ、と増えていって、お嬢の肩をそっと抱くと、彼女は小さく声を上げて泣いた。
そんな風にされたら、確かにプライドは傷つくよね。
社長令嬢も、楽じゃないんだ……
あたしは震える肩を撫でながら、彼女に少し同情した。