バスボムに、愛を込めて
4.不審者?
お嬢はもう大丈夫ですって、皆に報告しようと実験室に戻ると、そこにはたった一人の姿しかなかった。
「――ああ、戻ってきたのか」
実験台に肘をつき、つまらなそうにスマホを弄っているのは本郷さん。
「あれ? 寧々さんと川端さんは……?」
「葛西がなかなか落ち着かないから、川端さんが別室で話を聞いてる」
「へ、へえ……」
問題はお嬢の方だけじゃなかったか……偶然本郷さんとふたりきり状態なのは嬉しいけど、浮かれてる場合じゃなさそうだ。
「で、お嬢と一緒じゃないってことは説得に失敗したのか?」
「あ、いえ。彼女ちょっと泣いちゃったので、顔洗ってから来るそうです」
「泣いた? あのお嬢が?」
本郷さんが眼鏡の奥から疑いの眼差しをあたしに向ける。
「あんな態度取っちゃってたのにも彼女なりの理由がありました。でも、皆さんに謝る覚悟ができたみたいなのでもう大丈夫だと思います」
言いながらカタン、と本郷さんの向かいの椅子を引いて、あたしはそこに座った。
そして本郷さんのキレイなお顔を遠慮なく正面から拝見しようとしたら、バチっと目が合ってしまった。