バスボムに、愛を込めて
爪? あたしは寧々さんの視線を追い、お嬢が礼儀正しく重ねている手の指先を見つめた。
――――あ。
「今、全部落としてきました。口先だけで謝ってもしょうがないと思って」
顔を上げたお嬢は、そう言ってネイルの剥げた指を寧々さんに見せた。
反省しているとはいえ、あのお嬢がそこまでするとは思わなかった。
今日の午前中にお金をかけてわざわざ施したそれを落としてきた彼女の気持ち、きっと寧々さんに伝わるよね……?
「……社長の娘だからって、甘くしないわよ?」
声には厳しさを残しつつ、でも優しい瞳をした寧々さんが聞く。
「もちろんです!」
お嬢のきっぱりとした言い方に、今度こそ寧々さんの表情は柔らかくほぐれた。
「それならいいわ。私も大人気なかった、ごめんなさい」
「あ、あの、じゃあ、私のこと……殴りませんよね?」
「殴る?」
うわぁ! 余計なこと言わないで、お嬢!
あたしは二人の間に割り込み、笑顔を貼りつけて両者の顔を見比べる。
「よ、よかったです! 二人が仲直りできて! だいぶ作業が遅れちゃいましたし、早速本郷さんの買ってきてくれたバスボム、色々試してみませんか?」
「そうね……くだらないことでチームの輪を乱してごめんなさい。じゃあ、小森さんと私で準備をしましょう?」
「はい!」
ほっ……なんとかごまかせた。