バスボムに、愛を込めて
インターホンを押そうかどうしようか迷って止めて、を繰り返してて、明らかに怪しい。
……げ。ああいう人が来るの引っ越してきてから初めてだ。今日は雨じゃないし、武器になるようなものなんて持ってないのになぁ……
あたしはバッグを探り、化粧ポーチからとりあえず眉毛を整える用の小さなハサミを出すと胸の前で突き立てながら男に近づいた。
「その家に何か用ですか……?」
瞬間、振り向いた男を見てあたしは目を丸くした。
あまりに懐かしい顔だったから、ハサミをしまうのも忘れて彼に駆け寄る。
「孝二(こうじ)!」
「おお、美萌、よかった、会えて……って、お前なんだそのハサミは!」
おおげさに扉に背中を張り付けてビビる素振りをした孝二。
「え、ああ、だってまさか孝二と思わないから、不審者だった時のためにいちおう武器をね?」
「はは、相変わらず馬鹿だなーお前。そんなので大の男に勝てると思ったのかよ」
くしゃっとあたしの頭を撫でた長身の男の名は、中丸孝二。
地元で仲の良かった、あたしの幼なじみだ。