バスボムに、愛を込めて


シャワーを浴び終えて少し頬の上気した孝二とビールで乾杯をして、チンしたイカ焼きにたっぷりのマヨをつけてはむはむと噛んでいたあたし。

孝二が他に用意していたおつまみは、枝豆、ポテチ、ちー鱈。

キムチがなくてよかったー、なんて思いながら適当に点けておいたバラエティ番組にあはは、と笑い声を上げていると、孝二が早速空にしたグラスをテーブルに置いて、口を開いた。


「……桐子(きりこ)は、同じ職場の男と結婚するんだそうだ」


視線をテレビから孝二に移す。彼は疲れきったような顔で、意味なく中身のない枝豆の鞘をつついている。


「……だそうだって、なんで他人事なの?」

「もう随分前から、桐子の気持ちが俺から離れてるのは知ってた。だから終わるのは時間の問題だろうって思ってたら、案の定そう言われたんだ。今年の正月に」


キリちゃんの気持ちが離れてた?

あたしは二人が羨ましいくらいに仲のよかったところしか見たことがないから、やっぱり信じられない。

でもそれよりおかしいと思うのは、孝二の言動から怒りの感情が感じられないこと……


「それが本当なら、なんでそんな淡々としてられるの? 孝二だってキリちゃんとの結婚考えてたでしょう?」


あたしも孝二もキリちゃんも、幼稚園から高校までずっと一緒だった。大学は皆別々だったけれど、地元から通ってたから、相変わらずよく遊んでいて……

二年の頃だったか、ふたりが付き合い出してあたしはすごく嬉しかった。

デートにくっついて行っては二人をひやかし、まんざらでもない様子で照れる孝二とキリちゃんを見るのが大好きだった。

大好きだったんだけどな……


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