バスボムに、愛を込めて
6.座敷は嫌い
ファーストキスは、好きになった人と初めてのデートの帰り際で。
そんな乙女チックな妄想をずっと抱いて、でもなかなか彼氏ができないからそれを実現するチャンスがなくて。
それでも、また本郷さんという人を好きになったから、今度は彼がファーストキスの相手なら嬉しいな、と懲りずに夢見ていたのに……こんなの、ないよ。
「孝二のバカ……」
湯船の中でちゃぷん、とクリーム色に染まったお湯を両手にすくって、自分の泣き顔にかけた。
いいにおい。あったかい。
……動揺した心ではそれくらいの感想しか浮かばない。
ちゃんとしたレポート書かないと、また本郷さんに使えない奴だと思われちゃう。それだけは、いや。
さっきシャワーを浴びている途中で、孝二が玄関を出ていく音を聞いた。
一発くらわせた平手打ちが効いたのか、自分で反省しているのかはわからないけど……とりあえず、あんな奴のことは頭から追い出して、仕事脳に切り替えなくちゃ。
一度頭までお湯につかってからぷはぁと顔を出すと、少しは気分がスッキリした。
“幼なじみに踏みにじられた乙女心を癒す効果あり(効果には個人差があります)”――なんてレポートに書いたらダメだよね、と、馬鹿なことを考えたら、少し笑えた。