バスボムに、愛を込めて
「あの、ありがとうございます!」
『…………は?』
「あたし今日すごく嫌なことがあって、さっきまで泣いてたんですけど……」
そう、さっきまであたしはすごくブルーだった。なのに不思議と今は、少しも嫌な気持ちが残っていない。
本郷さんの声を聞いたら、孝二にされたことなんて吹っ飛んでしまった。
やっぱり、恋のパワーって偉大。
「この電話で元気になりました。本郷さんのお陰です」
『……意味が全くわからない』
「いいんです。とにかく、お礼言いたくて」
電話の向こうの本郷さんは黙っていた。
まぁ、あたしが勝手に凹んで勝手に元気になっただけだから、お礼なんて言われてもピンとこない……か。
「あの、引き留めてしまってごめんなさい! 懇親会の件はちゃんとやっておきますので」
『ああ。頼んだ。座敷は嫌いだ』
……まだ言ってる。あたしは小さく笑ってから、最後の挨拶を口にした。
「それじゃあ、おやすみなさい」
『……ああ』
それだけ言うと、ためらいもなくあっさり電話を切った本郷さん。
ちょっとだけ“おやすみ”を期待したけど、それをあえて言わないのも彼らしくてステキ。
耳の奥にはまだ、電話越しの本郷さんの声が甘い余韻となって残ってる。
……今夜はいい夢が見れそうかも。