バスボムに、愛を込めて


「あの、ありがとうございます!」

『…………は?』

「あたし今日すごく嫌なことがあって、さっきまで泣いてたんですけど……」


そう、さっきまであたしはすごくブルーだった。なのに不思議と今は、少しも嫌な気持ちが残っていない。

本郷さんの声を聞いたら、孝二にされたことなんて吹っ飛んでしまった。

やっぱり、恋のパワーって偉大。


「この電話で元気になりました。本郷さんのお陰です」

『……意味が全くわからない』

「いいんです。とにかく、お礼言いたくて」


電話の向こうの本郷さんは黙っていた。

まぁ、あたしが勝手に凹んで勝手に元気になっただけだから、お礼なんて言われてもピンとこない……か。


「あの、引き留めてしまってごめんなさい! 懇親会の件はちゃんとやっておきますので」

『ああ。頼んだ。座敷は嫌いだ』


……まだ言ってる。あたしは小さく笑ってから、最後の挨拶を口にした。


「それじゃあ、おやすみなさい」

『……ああ』


それだけ言うと、ためらいもなくあっさり電話を切った本郷さん。

ちょっとだけ“おやすみ”を期待したけど、それをあえて言わないのも彼らしくてステキ。

耳の奥にはまだ、電話越しの本郷さんの声が甘い余韻となって残ってる。

……今夜はいい夢が見れそうかも。



< 51 / 212 >

この作品をシェア

pagetop