バスボムに、愛を込めて
ロッカーで着替えている時、お嬢が目ざとくあたしの服装に気づいて言った。
「わー、美萌さんなんかいつもより可愛いですね!」
「え、えへへ、そうかなぁ」
白いレースのブラウスに、春らしく明るいピンクベージュのテーラードジャケット。
それに会社で着てても怒られない程度の淡い色合いの花柄スカートを合わせて、女子っぽさを強調したつもりの今日の服装は、あたしもお気に入り。
お嬢の言葉に照れながら、ロッカーの扉の内側についた鏡でメイクを直す。
「ほんと、私がお持ち帰りしたいくらい可愛い、今日の美萌ちゃん」
自分の支度を終えてバタン、とロッカーを閉めた寧々さんが、そう言って自分の長く艶やかな黒髪を撫でた。
お嬢も寧々さんも、昨日辺りからあたしを下の名前で呼んでくれるようになって、ますますチーム内の女子の結束は固くなっている。
「本郷くんと、接近できるといいわね」
寧々さんがそう言ってあたしの肩を叩いたのを見て、お嬢が素っ頓狂な声を上げた。
「え! 美萌さんって本郷さん狙いなんですか!?」
「そうなのよ、飛鳥ちゃんも応援してあげて?」
「もちろんです! わぁー、本郷さんって無愛想だから、デレデレしたとことか見たいー!」
……それはあたしが一番見たい! だから今日は頑張るのよ!
あたしは気合いを入れてベビーピンクのグロスを唇にでっぷりと乗せた。そして寧々さんたちの方を振り返ると、何故か二人とも吹き出す。
「美萌さん……それはやりすぎなのでは」
「……油飲んだみたいになってるわよ」
「え!?」
慌ててティッシュをはむはむする姿を二人に笑われつつ、飲み会用のあたしは完成したのだった。