バスボムに、愛を込めて


「あはは、コケちゃいました」

こういう時は、笑ってしまうに限る。そう思ってわざと照れ臭そうにしたあたしに、本郷さんがいつものしれっとした口調で言った。


「……少しはましな服装してきたと思ったが、中身がお前だもんな。あんなにみっともない転び方する大人は初めて見た」


わ、ましな服装、って誉めてるよね!? 本郷さんに誉められた!

あたしはスカートの裾を引っ張りながら、満面の笑みを彼に向ける。


「本郷さん、こういうのお好きなんですね! 参考にします!」

「……お前、後半聞き流したろ」


ああ、なんかこの会話のテンポ、慣れてくると楽しいかも。
疲れたように眼鏡を押し上げる横顔は、やっぱり今日もみとれてしまうくらい素敵だし。


「あ、そういえば、なんであたしを呼んだんですか?」

「普通幹事が先頭だろ」

「あの……じゃあ、このまま隣を歩いても?」


さっきまで彼と並んで歩いていた川端さんは、寧々さんたちが気を利かせたのか女性陣の輪の中に入っている。

お店まであとほんの少しで着いちゃうけど、その間だけでも……


「……好きにしろ」


表情も声もかなり迷惑そうだったけど、あたしは言葉の方だけを信じることにして、はにかみながらちょっとだけ体を彼の方へ寄せた。

本郷さんは特に拒否した様子もなく、あたしはしばしの間その幸せな距離感に胸を高鳴らせていた。


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