バスボムに、愛を込めて
本郷さんは黙って視線をお料理に落としてしまったけれど、寧々さんは気分を害した風もなく、お嬢に説明する。
「そうなのよ。すぐにダメになったけどね」
「え! それはまたどうして……っていうのは聞いてもいいんでしょうか」
お嬢は当事者の二人と、それからあたしの表情も窺いつつ控えめにそう言った。
二人の別れた理由、あたしも気になっていたんだよね。こないだは聞けなかったから、お酒の席ということもあるし今度こそ聞き出したい。
「あたしも気になるので、ショック受けるの覚悟で聞きたいです」
そう言って本郷さんを見つめると、ココアブラウンのしなやかな前髪に片手を差し込み、面倒くさそうに呟く。
「別に他人に言って聞かせるような話じゃ――」
「そうよねぇ。可愛い後輩たちに、“キスもできないヘタレ男”だと思われたくないものね」
え。“キスもできない”って……?
「……葛西」
「あら、本当のことじゃない」
あたしたちのテーブルが、急に重苦しい空気に包まれた。
あたしとお嬢は不安げに成り行きを見守り、川端さんは一人素知らぬ顔でお酒を飲み続けている。
そんな中、ただいまバトル中の二人のお酒が運ばれてきて、寧々さんは升に入った小さなグラスの中身を一気にあおった。
うわぁ……大丈夫かな。ますます過激な寧々さんに変身してしまう気が……