バスボムに、愛を込めて
案の定、カツン、と勢いよくテーブルにグラスを置いた寧々さんの目は恐ろしく据わっていて、不気味に笑いながら話を続けた。
「みんな聞いてよぉ。付き合って三ヶ月、コイツったら手も繋いでこないから、私ヤキモキしちゃって自分から部屋に誘ったのね?」
「……葛西、飲みすぎだ」
たしなめるように本郷さんが言っても、酔っぱらい寧々さんには全く効果がなかった。
「うるさいわよ! ……でね。来てくれたのはいいんだけど、ずっと床に正座しちゃって全然甘い雰囲気にならないから、私言ったわけ、“しようよ”って」
そこで言葉を切った寧々さん。
本郷さんはこれ以上話を続けて欲しくなさそうだけど、あたしもお嬢もすっかりワイドショーにかじりつく主婦のように、寧々さんの口から語られることに夢中になっている。
今目の前に居る美男美女がどんな恋愛をしていたのか知りたい。そう思うあたしの中では嫉妬よりも好奇心が勝っていた。
「そしたら……何て言ったと思う? “俺と付き合っても、キスも、それ以上のこともできない。そういうのを求めてるなら別れよう”――ですって」
キスもそれ以上もできない……一体どうして?
今は別れてしまったとはいえ、当時は両想いだったんじゃ……
信じられる? と寧々さんがあたしたちに同意を求めていると、バン!と音が鳴り激しくテーブルが揺れた。
その原因である隣の席の本郷さんは、苛立ちのオーラを纏いながらテーブルに手を突き立ち上がっていた。