バスボムに、愛を込めて


「本郷さん……?」

「……帰る」


――――え。

一気に彼に注目する一同の視線なんてものともせず、本郷さんはお財布から一万円札を取り出してテーブルの上に置いた。


「ま、待ってください! せっかくみんなで仲良くなろうって会なんですから、もう少しだけでも……!」

必死で引き留めるあたしを、本郷さんは氷のように冷たい目で見る。


「仲良くなるイコール他人の領域にズカズカ入り込んでくることなら、俺はごめんだ」

「本郷さん……」

本気で怒っているみたい……どうしよう。
あたしたちが興味本位で寧々さんとのことを聞きたがったせいだよね……

最悪な雰囲気になってしまった私たちの個室。寧々さんだけがひとり、黙ってお酒を飲み続けている。


「……それじゃ、俺は先に失礼します」


パタン、と呆気なく閉まってしまった個室の扉。

残されたあたしたちは、しばらく気まずい余韻から抜け出すことができなかった。

まさか、こんな空気になっちゃうだなんて。勝負下着の出番、完全にあり得なくなっちゃった。ってまぁ、元からないけどさ。

ふう、とため息をついて椅子の背もたれによりかかると、気の抜けた私を叱りつけるような声が飛んできた。


「美萌ちゃん、なにぼうっとしてるのよ。追いかけなさい!」


< 59 / 212 >

この作品をシェア

pagetop