バスボムに、愛を込めて
痛む足を引きずるようにして公園の中を進み、ようやく見つけたベンチに座ると、あたしは人気(ひとけ)がないことを確認してから、大き目の声で叫んだ。
「本郷さーん! 本郷瑛太さーん!」
わけもなく好きな人の名前を呼びたくなることって、あるよね。それは疲れてたり弱ってたりするとなおさら。
せっかくみんなが応援してくれたって、あたしが本郷さんを見つけられないんじゃ意味ないじゃない……
深いため息を吐き出し、満開を少し過ぎて花が散り始めている頭上の桜の木を見上げたときだった。
「……こんな場所で人の名前を大声で呼ぶな」
桜の木は、不機嫌そうな本郷さんの顔で見えなくなった。
あたしは首を上にあげたままで呆然とし、瞬きを繰り返しながら言う。
「……桜の精が、幻覚を見せてくれてるんでしょうか」
それか、足の痛みが限界を超えてあたしの頭がおかしくなっちゃった?
「馬鹿、本人だ。っていうか誰だよ桜の精って……」
そりゃあ、ピンク色した親指くらいの大きさの羽が生えてる女の子で……と、事細かに説明しようと口を開きかけて、我に返った。