バスボムに、愛を込めて
ちくんと胸に痛みが走り、あたしは神妙な顔で話の続きを待つ。
けれど一度下を向き、ずれた眼鏡を中指で押し上げた本郷さんは、いつもの冷めた目であたしを見ると言った。
「……なんで俺はお前ごときに全部話しそうになってるんだ?」
……この期に及んでなんですかその疑問!
「今の話は忘れろ羽石。とにかく俺にあまり関わろうとするな。葛西の言った通り、俺はキスもできないような男なんだ。この先恋人を作る気もない」
だから、本郷さんのことは諦めろ……ってこと?
そんなの絶対いや! さっき一瞬見せた表情も気になるし、寧々さんも言ってたもん。
“彼のことは誰かが変えなきゃだめなのよ”――って。
「本郷さんは、それでいいんですか? 一生誰とも付き合わないなんて、そんなの……寂しいと思います」
あたしが言うと、彼はこちらに背を向けてしまう。
「……それはお前が人より恋愛体質なだけだろ。俺は恋人なんていなくても生きていける」
「でも……っ」
立ち上がって駆け寄ろうとすると、強い風が吹いて桜が舞った。
そのせいで立ち止まってしまったあたしを無視して、本郷さんの背中が遠ざかる。
「あたし――っ! 諦めませんから!」