バスボムに、愛を込めて
「寧々さんは本郷さんと付き合ってたとき、どんな場所でデートしてたんですか?」
品良くステーキを食べ終えたお嬢が、大盛りカレーにスプーンを差し込む寧々さんに聞いた。
寧々さんは「ちょっと待ってね」と、一口カレーを食べて満足そうな顔をしてから口を開いた。
「たったの三ヶ月だったから、会社帰りのご飯とかを除けば数回しかデートらしいことはしなかったけど、無難に映画とか買い物とかだったわね。……あ、でも一度だけ」
そう言いかけて、何かを思い出すように人差し指を顎に置いた寧々さん。
「海……誘われたわ。冬だったから“寒くない?”って言って、私が却下しちゃったんだけど」
海……? なんだか意外。
本郷さんなら、髪がベタベタになるのとか真っ先に文句言いそうなのに。
「海、いいじゃないですか! シーズン的に潮干狩りのイメージですけど、アサリいるとこじゃなければ人も少なそうだし、ロマンチックかもしれませんよ!」
「そうかなぁ……」
そんな風に言われると、すぐ影響されちゃうんだよなあたし。
眩しい日差し、光る水面、潮風に髪をなびかせる本郷さん……
砂浜に足をとられるあたしに、彼は手を差し出しながらめんどくさそうに言うんだ。
“馬鹿だな、つかまれよ”――――ああ、きゅんとするぅ。
「……美萌さん、チーズ固まってきてますけど」
「食べないならもらうわよ。妄想内で本郷くんとアサリでも食べてなさい」
「――ダメ! あたしのハンバーグです!」
あのクールな本郷さんを誘うには、エネルギーがいるんだから。
あたしは寧々さんの魔の手からハンバーグを死守し、何かがふっきれたようにモリモリと食べ出した。