バスボムに、愛を込めて
しばらく沈黙が流れ、あたしはドキドキしながらも段々と自信をなくしていく。
やっぱり行く場所が問題なんじゃなくて、隣にいる人間があたしじゃ意味ないのかも……って。
「……どこの“海”かは俺が決めていいのか?」
「はい。もちろ――――え?」
間抜けな声を出すあたしに、本郷さんが一歩近づく。
そして無表情で白衣のポケットを探ると、スマホを取り出して言った。
「いつがいいんだ」
もしかして、デート……してくれるんですか?
自分から誘ったのに信じられなくて、スマホに指を滑らせる彼をぽかんと眺めるあたし。
「五月三日か四日、それ以外は無理だ」
……これは夢か幻?
「じ……じゃあ、三日、で」
それともいつものあたしの妄想?
「忘れるなよ。詳細は追って連絡する」
「わかりまし、た……」
呆けた顔で本郷さんの背中を見送りながら、自分の頬をつねってみる。
「ちゃんと、痛い……」
……現実なんだ、これ。
そう思うのと同時に、急に復活するのは激しい胸の高鳴り。
どうしよう。本郷さんへの“好き”が止まらない。
あたしはまるで心臓に重い病を患っているかのように胸をギュッと押さえ、ふらつく体を支えるため壁づたいにロッカー室までの道のりを歩いた。