バスボムに、愛を込めて
たとえあたしの為を思って言った言葉だとしても……それであたしがこんな泣きそうな気持ちになるんだったら、それはもう孝二の独りよがりでしかないんだよ。
孝二に背を向け、あたしは全身で“拒否”を表現した。
すると背後で深いため息をつくのが聞こえ、諦めたように孝二が言う。
「少し……頭冷やすわ。お前がこんな風に怒るの、初めて見た」
そうしてあたしの脇を通り過ぎ、リビングに置いてあった自分の荷物を持ってきた孝二はそのまま玄関に向かう。
無言で靴を履き、そして出ていく直前になってこちらを振り返った孝二は言った。
「これだけは覚えておいて欲しい。お前がその“本郷さん”を想うのと同じくらい、俺も美萌を想ってるってこと」
ズキン、と胸に鈍い痛みが走った。
……孝二の気持ちを受け取ることはできない。だからって幼なじみの関係まで捨てて、他人になるなんてこともできない。
そんなあたしの態度に、孝二だって傷ついているのだと、思い知らされたような気がして。
「……じゃあな。たぶん、また来る」
もう来ないでって言ったのに……孝二のばか。
抱いていた罪悪感は素直な形で現れず、そんな悪態に変わる。
でも、孝二の姿が見えなくなれば、自然に謝罪の言葉が口からこぼれた。
「……ごめんね」
あたしは閉まる扉を見つめながら、痛む胸をきゅっと押さえていた。