バスボムに、愛を込めて
海へ向かうバスは、連休だからかすごく混んでいて、あたしたちは二人とも立ってその振動に揺られていた。
もちろん今日も、吊り革にハンカチを添えるのを忘れない本郷さん。人の熱気で車内が暑くなっているせいか、首筋にはときどき汗の雫が流れる。
それが妙に色っぽくて、海岸線の見える窓の外より彼ばかりに視線を固定するあたし。
「羽石。その、でっかい荷物はなんだ?」
不意にそう聞かれて、あたしは我に返る。本郷さんの見ているのは、お弁当のバスケットだ。
あたしは少し照れながらも、少しだけ得意げに言った。
「あたし、お弁当作ってきました。本郷さんと一緒に食べようと思って」
「弁当……」
本郷さんはそう呟いたきり、あたしから目を逸らしてしまう。
あれ……? なんかいやな予感。
視線を窓の方へ投げたまま、流れる景色を眼鏡のレンズに映す本郷さんの表情が硬い。
しばらくして彼が口を開くと、あたしの予感は見事、現実のものとなった。
「……悪いけど。他人の作ったものは食べない主義」