バスボムに、愛を込めて
12.幸せすぎる時間
吊り革にはハンカチでつかまるけど。
お弁当も食べてはもらえないけど。
あたしの手を握るのは、素手でもいいんだ。
もしかしたら、お弁当を食べられないお詫びのつもりなのかな。
そうだとしても、嬉しい。あたし、本郷さんと手を繋いで歩いてる。
すぐそばで聞こえる波の音や潮の香りが、ようやくあたしの中に爽やかな風を運んできてくれた。
それを待っていたかのように、ずっと連なっていた背の高い松林が途切れ、隠れていた水平線が見えてくる。
余計にワクワクしてきたあたしは本郷さんの手を引っ張り、早く行きましょうと促す。
「見えましたよ! 海!海!」
「……言われなくても俺にも見えてる。やっぱりこの辺は静かでいい」
「前にも来たことあるんですか?」
「ああ。子供の頃よく来た」
海のにおいを吸い込むように、大きく深呼吸をしながら本郷さんが言った。
へええ……。あたしも海の方出身だから、子どもの頃はよく海で遊んだ。
あたしの家族と、それから孝二の家族も一緒に……って、なんでこんな時にアイツを思い出すのよ!