情熱効果あり
明日の朝は迎えに行くからと、哲志先輩の車に乗せられる。

初めて助手席に乗るのではないのに、何だか緊張する。今さらだけど、助手席という場所は距離が近いと思った。


シャツの腕をまくって、運転する哲志先輩に今まで感じたことのない男を感じる。

おかしいのは哲志先輩ではなくて、私なのかもしれない。でも、いきなり抱き締めるから…おかしくなったのだ。


哲志先輩は…


男だけど、男ではない。

ただの先輩だ。

何でもないただの人。

普通のつまらない人。

だから、意識してはいけない。

ただの先輩、男ではない。


暗示をかけるように、頭の中で何度も同じ言葉を繰り返した。


「麻衣…嫌だった?」


「はい?何が?」


「抱きしめたこと」


せっかくの暗示が消えていく…。必死の暗示は無駄だった。
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