情熱効果あり
思いもよらないお誘いだ。

あと10分くらいで家に着くというこのタイミングに何を言い出すのだろう。


「何でって…そうだなー、もう少し一緒にいたいからかな」


からかな…なんて、お誘いにしては随分と曖昧だ。それに、一緒にいたい理由なんてきっとないはずだし、特別な意味を持たないに違いない。

それに好きな人の代わりになれない。


「ごめんなさい、家で降ろしてください」


曖昧なお誘いを受け入れる気分にはならなかった。「そう」と短く返事をした哲志先輩は、しつこく誘うことも断る理由を聞こうともしなかった。

やっぱり特別な意味を持つお誘いではないようだ。


車は当初の予定通り、家の前で止まる。


「ありがとうございました。おやすみなさい」


「おやすみ。また明日」


片手をあげる哲志先輩の顔を見ても、感情が分からない。
< 120 / 270 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop