情熱効果あり
哲志先輩がシートベルトを外して、降りようとするから、腕を掴んで止めた。


「待って。今、誰もいないよ。お父さんもお母さんも蓮と蘭と一緒に動物園へ出掛けたの。あの…挨拶するつもりだった?」


一瞬動きの止まった哲志先輩は座り直す。


「じゃあ、今度改めて挨拶させてもらうよ」


「でも…何で?」


今まで付き合った人で、進んで挨拶をした人は多分いなかったはず。挨拶をしようと思っていることに誠意は感じるけれど、突然のことに少し混乱した。


「何でって、付き合うのだから、当然じゃないのかな?」


「今までもそうだったの?」


「いや…。なかった」


「え?なかった?」


「まあ、いいや。出るから、シートベルトして」


彼女が出来るたびに、親にきちんと挨拶をする律儀な人かと思ったけど、違うようだ。何だか自分が特別に想われているようで、嬉しくて、少し口元が緩む。
< 251 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop