HAIJI
佐々来-ササライ-
スラム
俺は、人生最大の絶望をみた。
あまりの出来事に頭がついていかない。
まさか、とか、夢?とか、とにかく目の前にある現実を信じきれずにいた。
五感はハッキリしている。
広がる景色も、鼻をつく臭いも、周りの声も、全て現実であることは間違いない。
しかし、それでも『なんで?』が頭にこびりついている。
「そんなに信じられない?前触れとかなかったわけ?」
俺の意中に反して、能天気な声は、最後に「めずらし」と付け加えた。
「ヨイ、」
「へいへい」
正面で交わされる会話を通り越して、俺はその奥に広がる光景から目を離せずにいた。
フェンスの向こう側。
雑草が生い茂った中で、プレハブ小屋やベニヤ板で作ったようなバラック小屋がならんでいた。
生ゴミやら体臭やらが混ざりあったようななんとも言い難い臭い。
蝿が飛び交っている。
水捌けが悪いのか、水溜まりも見てとれる。
不衛生であることは間違いない。
子供の声が聞こえる。
小屋の中、そしてその向こう側に子供が生活していることは容易に想像ができた。
日本経済の教科書に載っていた写真を見たことがある。
テレビでも何度か流れていた。
確か、こう紹介されていたはずだ。
ハイジの棲みか──そう、『スラム』。