HAIJI
蛙を食べた。
鶏肉に似てると聞いたが、けして美味しいと言えるものではなかった。
イナゴを食べた。
たんぱく質。
不味い。
草を煮た汁。
青臭い。
スラムの食べ物はどれもこれも不味かった。
でも、食べた。
もう、缶詰やレトルトは必要ない。
俺は、ハイジだから。
全ては生きるために。
一偉に貰った古い地図によると、このスラムの場所は相当郊外にあった。
スラムから中野通区までは西に向かって車でも一時間程。
そして俺はその更に西にある上之区(かみのく)の上で指を止めた。
「俺はここに住んでた」
宵は俺の指と顔を交互に見て、眉間を寄せる。
「お前まさかママのところに帰りてぇって言い出すんじゃねぇだろうな」
「そうじゃない」
「ホントかよ。じゃあパパか?上之区なんて超高級住宅地じゃねぇかよ。本物の坊っちゃんだったとはな」
「知ってるのか?」
「昔っからそうだろ」
宵の言葉に俺は静かに頷いた。
「確かに俺は裕福な生活をしていた方だと思う。ただ、全てがそうなわけじゃない」
俺の話に首を傾ける宵。
一偉は黙って俺の話を聞いている。
「俺が直接家を買ったわけじゃないから、土地の値段とか家の相場とかはよくわからないけど、確かに立派な家は多い。区外からは妬まれたり羨まれたりするのは子供の俺でもよくあった。
だけど、それは勝手なイメージだ。
実際、向かいの家はウチより大きかったけど、俺が中学に上がる直前に借金を苦に父親が首吊った」