HAIJI
「今日からここがアンタの『家』」
俺を連れて来た青年が、まるで転校生を扱うように青いフェンスの入口へ案内する。
青いフェンス──ただの鉄の網じゃない。
国が設置した保護区域。
このフェンスに足を踏み入れるということは、国の保護児童という扱いになるということ。
つまり、親の育児放棄──ハイジを意味する。
足が動かない。
俺は──ハイジになるのか?
親に捨てられたのか?
何故?
家は裕福な方だったと思う。
子供の自分ではどれだけのお金があったのかあまり検討はつかないが、小学校から高校までエスカレーターの私立校に入学した。
自分が望んだわけではない。
親が、将来の為にと勧めてくれた。
幼心にお金の掛かる学校であることを認識していた。
成績も悪くなかった。
どうせなら一番を取れと厳しく教育されていた。
少なくとも自分のことは自分でやっていたし、反抗した記憶もない。
あまり手の掛からない子供だったろうと自分でも思う。
父親は仕事であまり家にはいなかった。
公務執行役員であったため、国中を飛び回っていたからだ。
そういう意味ではコミュニケーションは少なかっただろうか。
しかし、けして愛情がないと感じたことはなかった。
そういえば先月、父親が久しぶりに家に帰ったときは少しだけ、本当に少しだけ様子がおかしかったかもしれない。
酷く疲れているようで、あまり刺激をしないようにしていた記憶がある。