HAIJI
宵はよくわからないと言うように首を傾ける。
「一応ハイジも法的に人権はある。けど、訴えるやつなんていない。それは親がいないからだ。
治安の悪化がハイジのせいになっていることも少なくないから、ハイジの存在が煙たいやつも多い。つまり、ハイジは殴るにしても都合がいい。けど、たとえば間違えてハイジじゃないやつを殴った場合は裁判沙汰。殺しても訴えないハイジの存在があるのに、ただのストレス解消にわざわざ親のいるやつを襲うのはただの阿呆だ。つまり、確証が持てないやつを選んで襲ってくる確率はほぼない。
まぁ、トラブルがないことが前提だけど」
「……なるほどね。外と価値観のギャップが小さい今の方が逆にいいってことだ」
「ああ」
「ふぅん…」
一偉は腕を組んで少し考えるように地図を見下ろす。
「確かに宵には難しいかもしれないね」
「えー?」
「だってハイジがそのまま絵に描いたようなもんでしょ」
「なんだよそりゃ」
「ははは。まぁ、ハイジの生活しか知らない俺たちにはできない芸だってことだね」
宵は唇を尖らせて抗議すると一偉は声を出して笑って、俺はようやく安堵の息を漏らした。
これが成功すれば、ハイジにとっての希望になり得る。
外の人間の偏見もかえていく一歩になる。
畑のイモを盗まなくてもよくなるかもしれない。
それが、俺の考える10年後の未来。