HAIJI



「大丈夫かね……」


 佐々来がフェンスを潜って外へ出ていったのは夜中だった。

 スラム周辺は一応安全と治安維持のためにある程度人里からは離れてある。
 メインの道路に出るまでの道は、つまりハイジ以外はほぼ通らない。
 つまり明るくなる前にある程度人気のあるところまで出る必要があるのだ。

 宵や未門が使っている自転車を勧めたが、佐々来は「これじゃあハイジだって看板背負ってるのと一緒だ」と笑って断った。


「なんとかするんでしょ、多分」
「おいおい、珍しく投げ槍じゃねーの」
「ははは、」


 宵の心配を余所に、一偉が軽く笑う。


「生きてきた環境が全然違うんだ。俺たちがいくら考えたって佐々来の考えは理解できないよ、きっと」
「ほぼ一緒に生きてきた一偉の考えも、俺には理解できないことばっかだぜ」
「宵は考えないだけでしょ」
「馬鹿にしてんのかコラ」


 宵に後頭部を小突かれた一偉は、肩を揺らして笑った。


「一偉 」
「うん?」
「大和と何か喋ったんだろ?」
「……まぁね」
「何かあったか?」


 佐々来を見送ったまま、並んで何も見えない真っ暗な闇に視線を向ける。


「……宵、」
「ん?」
「俺たち、孤児からそのままハイジになって15年、何も変わらなかったし、変えようとも思わなかったし、変えられるとも思わなかったよね」
「……そうだな」

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