HAIJI

 宵が何も理解していないなんて嘘だ。
 物心ついた時から一緒に過ごしてきた。
 孤児院が襲われたときも、小さな子供を手を握って必死で逃げた。
 暴力に耐え、沢山の死を見て、お互いに励まし合ってきた。
 きっと、宵も感じているのだろう。


「今でも変わるなんて思わねーけど、」


 時流の変化を。


「なんかザワつくな」


 ヒュオ、と風が鳴く。
 裏の山の木々がザワザワと騒ぐ。
 野生の動物がそれに応える。


「俺たちが変えようと思わなくても、変えたいと思う人間がいるからかもしれない」
「スラムも変わんのか?」
「……。」
「俺たちが変わらなくてもいいって言っても」


 ザワリ、と何か見えないものが浸食しようとしている。


「俺たちを排除したんだから、もう放っておいてくれよ」


 宵の呟きは、誰に言うでもなく、切なく溢れる。
 一偉は宵の肩に手を置き、暗闇を睨み付けた。


「何かが変わっても、俺たちのやるべきことはいつでも変わらない」


 ここはスラム。

 最後の砦だ。





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