HAIJI
「いらっしゃいませ……」
“外の人間になりきれ”
一偉の言葉を思い出す。
若いアルバイト店員が一瞬怪訝な表情を浮かべたのがわかった。
見ない振りをしつつ、カゴに水、ホットのお茶、オニギリ、あとは経済雑誌を入れて、眉間を寄せた店員の前に持っていく。
財布からお金を出して、会計を待った。
客だ。
客である以上何もしてくることはない。
殴りかかってくる理由はないはず。
「ありがとうございました…」
やる気のないアルバイトは俺が店の外に出てからもジロジロと見ていた。
「……、」
コンビニ店員の死角になる所で足を止める。
ひどく泣きたくなる衝動を必死で抑えた。
何事もなかった安堵からか、久しぶりに外の人間に会った緊張からか、それとも、蔑むような視線からか──。
ハイジだから襲われるとか、そういう単純なことではない。
“俺たちのことを人間だとも思っていない”
自分よりも格下だと認識した時の──侮蔑。
俺はハイジに対して無関心だった。
傍観者だった。
関わりたくはなかった。
あれは俺自身のことだった。
こんな目で、俺はハイジのことを見ていたのだ。
拳を握りしめる。
コンビニ袋がカサカサと音を立てる。
歯を食い縛った。
泣く資格なんてない。
耐えろ。
現実を受け止めろ。
立て、自分の足で。