HAIJI
そもそも現金を持っても使う手段もなければ、病院に着く前に暴力が待っている。
保護区域の意味を考えたとき、矛盾があると言わざるを得ない。
しかしながら、この育児放棄児童法、通称ハイジ法を呼ばれるそれは人権問題と税金問題の狭間で問題となっているようだ。
問題は、ハイジに配られるべき税金は、公務執行員ならびに公務執行役員の横領の温床となっているだろうということだ。
俺は慎重に言葉を選びながら大和の様子を伺う。
大和が公務に準じる人間だとすると、スラムに持ってくるものの説明がつくわけだが、ピアスを外しているとなると、それはつまり。
「別に、どう捉えてもらっても構わない」
表情は変えないまま、その言葉が吉なのか凶なのか判断ができない。
大和は一度目を伏せて、ゆっくり目を開ける。
ちょうど、たっぷり時間を掛けて瞬きをしたみたいに。
「でもヒントはやろうか」
大和が目を細めて、唇の端を上げる。
それでも少し考えるように間を空けて、口を開く。
「お前が思うものをとことん追求しろ。俺はそれを止めない」
「……探られて困ることはないってことか」
「……さぁな」
「でも教えてはくれない……」
ヒント。
誘導か。
教えてくれないなら、俺には追求するしかないのだけれど。
「あとな、佐々来、」
大和は真っ直ぐに俺を見る。
捕らわれて、反らせない。