HAIJI
「お前さっき俺を信じたいって言ったけど、今後、誰も信じるな」
「……は……?」
「自分の見たもの、感じたもの、判断、全部、自分だけを信じろ。誰も頼るな」
大和は視線を外さないまま静かに言ったが、空気が重く息苦しくさえなった。
「……それは、大和のことも信じるなっていうことか」
「俺自身のことは信じなくていい。なんなら好きなように利用すればいい。利用されるところはされてやる」
「……、」
3か月前の人生最悪の裏切りがフラッシュバックして、息が詰まる。
俺はスローモーションのような、無重力空間の中にいるような感覚に襲われ、背中がひやりと汗が流れた。
数時間にも感じる止まった時間の針を動かしたのは、ドアを叩く音。
「取り込み中失礼するよ」
振り替えると、いつからいたのか、開いたドアに寄りかかった一偉が立っていた。
「どうした?」
フッと、大和を取り巻く空気が一気に溶ける。
「いや、ちょっと気になることがあって」
一偉はドアから背中を離し、深刻そうな表情でゆっくりと歩いてきた。
俺は小さく深呼吸をする。
心臓の音が脳まで響いていた。
「最近幸埜の体調が悪かったんだけど、」
心を落ち着かせて、改めて一偉を見た。
「もしかしたら妊娠してるかも」