地の棺(完)
「見て、ね、見てみて。中、何もないの。空っぽ。空っぽなんだよぉ」


亘一さんは無邪気にいう。


「蜜花ちゃんっ」


うずくまるわたしに気付き、快さんが体を支えてくれた。


「糞を通り越して畜生だな」


チッと舌打ちして、シゲさんが毒づく。

わたしは快さんに抱きかかえられるようにして、部屋から出された。

胸を圧迫するような不快感がいつまでもおさまらない。

快さんが制止してくれたのに、聞こうとしなかったわたしの自業自得。

壁にもたれかかり、吐き気をこらえるのに必死だった。

そこに、


「お兄様方、なにをしておいでですか?」


と、陽気な口調の初ちゃんが現れた。

初ちゃんは濃紺の着物に白い帯を締め、廊下に集まるわたし達を不思議そうに見ている。


「……中、見てみな」


快さんが顎をくいっと食事の部屋に向けた。

初ちゃんはすっと真顔になり、開けたままのドアをくぐる。


『行っちゃだめ』


そう言いたいのに、唇はぶるぶると震えて動かない。


「部屋に戻る?」


わたしの顔を覗き込み、快さんが尋ねた。

無言のまま首を横に振る。


初ちゃんより遅れて階段を上がってきた桔梗さんが、わたし達の様子を見て怪訝な顔をした。


「……なんの騒ぎ?」


黒い着物に金色の蝶が描かれた着物を着た桔梗さんは、赤い帯を締めている。


それが先ほどの薔薇を連想させ、思わず顔を背けた。
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