地の棺(完)
一階の緑色の扉を開けると、一瞬にしてむせかえるほどのお香の香りに包まれた。


昨日の初ちゃんと椿さんの光景を思い出し、胸がもやもやする。

手で鼻を覆うと、初ちゃんが気づいて不思議そうな表情をした。


「なんで鼻隠したの?」


「お香が……ちょっときついかなって」


返事をしてすぐに後悔した。

不快な理由が初ちゃんにばれたんじゃないか、そう思って。

ちらっと横目に見ると、初ちゃんは馬鹿にしたような笑みを浮かべている。


「この前雪と抱き合ってたくせに、けっこうピュアなんだね」


雪君と抱き合ってた?

言ってる意味がわからない。

ぽかんとした顔で初ちゃんを見ていると、彼はむっとしたのか、眉間に皺を寄せた。


「なんだよ。その間抜けな顔は。僕見たんだからね。

一昨日、階段の下で抱き合っていたのを」


「階段……ああ!」


わたしが階段から落ちかけたのを雪君が助けてくれた時。

あの時、階段の上に人の気配があった。

あれは初ちゃんだったんだ。


「あれは階段から落ちようとしたわたしを、雪君が助けてくれて」


「ふうん?」


初ちゃんは信じてないのか、不機嫌そうだ。

何故彼が機嫌を悪くするのかわからなくて、むっとする。

そのまま無言で廊下を進んでいると、階段の前まで進んだ初ちゃんが足を止めた。


「どうしたの?」
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