地の棺(完)
「初ちゃん、ね、初ちゃん」


地面に両手をついて、手探りで初ちゃんの体を探す。

右手の指先がかすかに布のようなものに触れ、それをぎゅっと握りしめた。


「なんだよ。うるさいな」


「どういう意味? なんで椿さんは疎まれてるの? なんで姉さんは望まれたの?」


さらりとしたその生地を両手でぐいぐい引きながら訪ねると、その手を初ちゃんに払いのけられる。


「あーもうっ! 話すからっ うっとおしいのやめてよね。

ちょっと自分で考えたらわかんないの?」


「わかんない。教えて」


「加岐馬の土地神はさ、望むんだよ。生贄を」


生贄?


「土地神様が生贄を? それは神隠しと関係ある?」


「あるだろ。馬鹿女。神隠しってのは表向きの言葉。その裏では土地神に生贄を捧げてたの」


頭がついていけない。

ただでさえ混乱していた頭が、さらにぐちゃぐちゃだ。


「初ちゃん、わたし……」


再び初ちゃんの声がする方向へ手を伸ばす。



その時、天から白い光が差し込んだ。


「蜜花さんっ、ここですか?」


雪君の声が頭上から響く。


「雪君!?」


「ああ、やっぱりここだったんですね。
大丈夫ですか? 怪我はしてませんか?
待っていてください!
すぐにロープを下します」


良かった。

見つけてもらえた。

ほっとして左隣にいるはずの初ちゃんを見る。

薄明りで見えた初ちゃんは、目を閉じていた。


「初ちゃん? 初……」


その時気付いた。


初君の左手が、ありえない方向を向いて曲がっていることに。
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