地の棺(完)
わたしの部屋のベッドで眠る初君の横に座り、目が覚めるのを待つ。

クローゼットの前には、快さんが持ってきてくれた布団が敷かれ、そこでは多恵さんが鼾をかきながら爆睡していた。

張りつめていた糸がやっと解けたのかもしれない。

二人の寝顔を見ながら、ほっとした安堵が生まれる。

何気ない日常生活にある平穏。

それがどんなに大切か、意識して気づくのは難しい。


机の上に置かれた桃の缶詰を手に取り、丸いピックが刺された中の果実を口に含んだ。

甘い白桃の香りと、滑らかな舌触りが口においしい。

外に目をむけると、薄暗い紫色の空を灰色の雲が速足で流れている。

木々は大きくきしみ、耳を澄ませば草のざわめきが聞こえた。

今夜もまた荒れるかもしれない。



額に汗を浮かべて眠る初君を見ながら、胸元の鍵を見る。


飛行機のおもちゃ。あの翼についていた鍵はどうなったのだろう。

わたしが穴に落ちた時、一緒に落ちてしまったんだろうか?

穴から引き揚げられた時、それらしいものはなかった。


あれは……わたしに宛てたなんらかのメッセージだと思う。

誰かにわざと穴に落ちるように仕組まれたのだと。

でも誰に?

鍵を送ってくれた人だろうか。

姉が生贄の噂を知った上でここで暮らしていたかもしれないという事も、ショックだった。

いくら昔のこととはいえ、十八年しかたっていないのに。

十八年前といえば、姉は十二歳。

巣穴に閉じ込められた女性となんの接点もないと思う。

知っていたから、だからここに住み着いたとしたら……なんのために?
< 133 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop