地の棺(完)
ここは一体どこなのか。


朦朧とした頭で考える。

黒く濡れた木々と、ぬかるんだ地面。

薄暗く湿った空気に満ちた周囲には人工物らしきものは全くない。

このまま完全に日が落ちてしまえば、なにも見えなくなってしまうだろう。


確かさっきまで志摩家のわたしの部屋にいたはず。

少しずつ頭の中の靄が晴れると同時に、自分の現状に多くの疑問が持ち上がった。

いつのまにこんな山の中に移動したんだろう。

覚えてるのは椿さんと話をしていたことと、ミントの香り。

ムカデから十分距離はとったが、わたしは屋敷を探して足を止めることなく歩いた。

でも視界が悪く、裸足のため足の裏がとても痛い。

自分がどこにいるのか全くわからないし、なにを目指せばいいかもわからない。

なんで? どうして?

いくら考えても出ることのない答えを求めて、わたしは動いた。


十分、二十分、三十分……


いや、一時間はたったかもしれない。

辺りは闇に包まれ、わたしは足を止めた。

寒くて、痛くて、怖い。

もしかしたら、最初の場所にいた方が良かったかもしれない。

動き回ったせいで、どんどん山の奥深くに移動しているのかもしれない。

そう思うともう一歩も動けなくなった。

濡れた体を抱きしめ、地面に座り込む。


こんな場所に自分で移動したとは考えにくい。

多分、誰かがわたしをここまで運んで来たんだろう。

それは一体誰なのか。

あの部屋にいたのは……椿さんと初ちゃん。

椿さんではわたしを抱きかかえて運ぶことは難しいと思う。

じゃあ初ちゃん?

ううん、無理。

初ちゃんは左手を骨折してる。
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