地の棺(完)
快さんやシゲさん、神原さんや雪君だろうか?

でも一体なんで?

その時、わたしの頭の中にぞっとするような考えが浮かんだ。

真紀さんや千代子さんを殺した人物のことだ。

二人を殺した犯人が、わたしをここに連れてきたんじゃないだろうか。

でもそれはなんのため?

殺すためならもうとっくにやられてるはず。

でもわたしは生きてここにいる。

考えられるのは、屋敷から遠ざけたかったから……?

遠ざけたい理由はなに?


頬にぽつっと水滴があたり、顔を上げる。

ぱらぱらと降りかかる冷たい滴は、再び雨が降り始めたことをわたしに告げた。

光が全く届かない完全なる暗闇では、自分が感じたものでしか周囲を知ることはできない。

わたしはそっと自分の胸元に手を伸ばした。

大丈夫。

鍵はちゃんとある。

足も痛いけど、なにかが刺さってるわけじゃないからまだ歩けそう。

周囲の地面を手探りで探ると、右手の指先が太い木の枝のようなものに触れた。

手繰り寄せ、両手でその長さを測る。

うん、これなら杖になりそう。

木の枝を支えに立ち上がった。


ここにいても誰かが助けにくるとは限らない。

ならば自分で動かないと。


わたしは木の枝で自分の数歩先を突きながら、前方になにもないか確認すると、闇の中を歩み始めた。

流れる涙も、口から洩れる嗚咽も、誰に見られるわけじゃない。聞かれるわけじゃない。

全身ボロボロだけど、屋敷に戻らないと。


この時、わたしはやはり自分が事件のきっかけなのだと、そう思っていた。

答えは目の前にあるはず。

それを組み合わせる決定的ななにかがたりないだけ。

わたしが原因なら、わたしが止めないと。
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