地の棺(完)
目を閉じた次の瞬間、体が宙に浮いたように軽くなった。

いや、浮いたのではない。

押さえつけられていた力がなくなったんだ。

目を開け、空気を思いっきり吸い込む。

肺が酸素で満たされ顔に集中していた血液が引いたが、焦りすぎたせいか激しくむせた。

馬乗りになり首を絞めていた桔梗さんは、わたしの体の上から消え失せている。

聴力を取り戻した耳に、人と人が取っ組み合うような音と、女性の金切声、そして少女のようなキーの高い叫び声が聞こえて、わたしは顔をそちらに向けた。

そこには、床に頭を押し付けられてもがく桔梗さんと、その上に重なる初ちゃんの姿があった。

桔梗さんは悲鳴とも怒号ともつかぬ声を上げ、初ちゃんは怒りに満ちた顔で桔梗さんの体を押さえつけている。

その隣では快さんが雪君を抱きかかえたまま、放心した顔で座り込んでいた。


「なにやってんだよっ なにやってんだよぉっ!」


初ちゃんは桔梗さんの顔を両手で床に強く押し付ける。

右頬を下にした桔梗さんは、僅かに開いた口から言葉にならない叫びをあげ、両手足を床にバンバンと打ち付けた。

初ちゃんは両ひざで桔梗さんの肩甲骨辺りをおさえ、桔梗さんが動くたびにそこに力を込めて動きを封じているようだった。

床には血が滲みはじめ、桔梗さんが苦しそうなうめき声をあげる。

桔梗さんの鼻からぼたぼたと血が流れ、血だまりつくった。


いけない。初ちゃんを止めなくちゃ。


ふらつく体を必死に持ち上げ、上体を起こすと腕の力で二人の近くまで這いよった。
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