地の棺(完)
「初ちゃん。だめ。手、離して……」


何度も咳込みながら、初ちゃんの手に触れる。

手の平に感じたその熱さに、はっとした。

触れたのは初ちゃんの左手。

骨折しているその手は、赤黒く異様に腫れあがっていた。


「初ちゃんっ」


慌てて初ちゃんの腰に手を回し、足に力を込めて後ろに倒れこんだ。


「ちょ、う、うわっ!」


倒れたはずみで左肩を床に強く打ち付けたが、初ちゃんの体に回した手の力は緩めない。


「離せよっ 蜜花っ」


いいえ、離さない。

わたしはもがく初ちゃんの体を強く抱きしめた。


「蜜花っ」


「ダメっ 初ちゃんの手がダメになっちゃうよっ」


かすれる声で叫ぶように言うと、初ちゃんの動きが止まった。

腰に回したわたしの両手に、初ちゃんの熱く腫れた左手と冷たい指先をもつ右手がそっと触れる。


「……なにもしないから離して」


落ち着きを取り戻した初ちゃんの声にゆっくりと手を離した。

初ちゃんは立ち上がり、転がったままのわたしに右手を伸ばす。

その手を借りて立ち上がると、桔梗さんがまだ意識を取り戻さない雪君にすがりつき、泣いていた。


先ほどまでの鬼気迫る雰囲気は消え、そこには一人の母親の姿があった。

その隣で二人を見ていた快さんも立ち上がり、悲しそうに頭を垂れた。


「ごめん、蜜花ちゃん。……なにもできなくて」


わたしは慌てて首を左右に振る。


「いいえ、快さんは止めようとしてくれて……」


「違うよ。怖くて……途中で体が動かなくなったんだ。
初がこなかったら……」
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